Yudai Tanaka 's blog

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Singapore Management UniversityでのHCI研究インターン

 

このポストは 研究留学 Advent Calender 2019 の12/17に相当するものでしたが、己の不徳の致すところにより、2020年2月現在の公開となっています
アドベントカレンダーの取りまとめをされている樋口さん、この度は大変申し訳ありませんでした

が2019年春にシンガポールの大学で行った研究インターンについて書きます

私は現在東大の学部4年生で、この3月に卒業後、夏からシカゴ大学のComputer Scienceの博士課程に進学します。研究はHuman Computer Interaction (HCI) という分野で行なっています

もともとHCIの研究を行おうと決めたのが2年ほど前で、その時既に分野の違う学部専攻(環境工学, 応用化学)に所属していました。そのため、これまでHCIに関する研究機会は全て研究インターンなどを通して独自に得てきました

今回書くシンガポールでのインターンもその一環です

 

概要

いつ行ったか: 2019年1月~4月
どこへ行ったか: Singapore Management University (SMU)
何をやったか: crowdsourcingにおけるworkers' earningに関する研究
どうやって行ったか: 受け入れ先の先生と直接やりとり

 

背景

 

インターンに至るまで

遡ること2年前、大学の交換留学制度を使って1年間シンガポール国立大学 (NUS)に留学していました (8/2017〜5/2018)

2018年4月ごろ、NUSで月例開催の分野のトークイベントを通して今回のインターン先PIであるProf. Kotaro Hara (以下原さん)に出会い、自分が帰国する直前の5月に彼のラボに遊びに行く機会がありました

その際にインターンしないかという話をいただき、兼ねてより原さんの研究については存じ上げていたため、憧れの研究者と働くチャンスと考えその場で「是非やりたいです」と申し上げました

交換留学から帰国してしばらくたった2018年秋頃に改めて「RAの予算が取れた」とご連絡いただき、インターンが正式に決まりました 

ビザや諸々の手続きについてはシンガポールは欧米と比べて簡単に済みます。自分は学部生 (学士号未取得)なこともあり、短期就労ビザではなく給与の出るトレーニングビザ的なもので滞在しました (詳細割愛)

 

受け入れ先PIについて

原さんはcrowdsourcingを活用したsidewalk accessibilityの向上や、crowdsourcingの市場構造やツールについての研究を行われている方です

HCI分野最大の国際会議であるCHIのProgram Comittieeもやられており、存在感のある日本人研究者としてもともと存じ上げており論文も読んでいました

kotarohara.com

 

さらに、彼は阪大の学部卒業から直接Maryland University の博士課程に進んで学位を取得しており、同じく学部卒業後に海外Ph.D.に進学する自分にとってキャリア上のロールモデルでもありました
先日の大学院出願に際して、推薦書執筆だけでなく出願書類に関するアドバイスまでいただきました。その節は本当にお世話になりました

 

Singapore Management University (SMU)

SMUは総合大学のNUS、理工系のNTUと並んでシンガポールで三本指に入る国立大学です。その形態は少し特殊で、工学部は無く、Business, Lawなどの社会科学学部群に School of Information Systemsが付加されたものとなっています (一橋大学に情報系の学科がついたイメージ)

School of Information SystemはCMUとのコラボレーションプログラムなども行なっており、在籍している教授陣の研究業績、スタッフや学生のアクティブさを見ても、非常に充実した研究・教育環境を備えていると感じました

 

研究

まだ論文が公開されていないため研究内容には触れず、どのように研究を進めたかを中心に書きます

3ヶ月という短期間の中、自分のした仕事は実装済みのインターフェースを使った60人規模のユーザースタディの設計・実施および実験結果の解析(データの特性に鑑みてベイズ統計を用いた)+原さんと共に論文の執筆といったところでした

時期ごとの進め方は以下

  • 1月下旬: 実験設計、予備実験
  • 2月上旬: 本実験
  • 2月下旬: データ解析・解釈
  • 3月上旬: データ解析・解釈、執筆
  • 3月下旬: 執筆
  • 4月上旬: 論文投稿

PIの原さんと1対1で議論する時間を多くいただくことができ、非常に手厚い指導を受けながら研究を進めることができました。指導というよりもはや二人三脚で常に並走してくださいました。感謝です

 

特に、ラボの方針で学生はResearch Journalをgoogle docsでつけることが習慣化しており、これが研究を効率的に進める鍵になりました。これは構造化された文章 (英語)+必要な図で構成されるフォーマルな研究日記のようなものです。1日~数日のスパンで更新していくことで、思考・進捗の記録と共有、それを元にした議論、さらに推敲をオンライン上で一箇所にまとめて行うことができます。これは以下のメリットとして換言可能です

  • イデア、進捗の取りこぼしを防止できる
  • 共同研究者との進捗共有を非対面で柔軟に行える
  • いつでも文書上で共同研究者からフィードバックをもらえる
  • 推敲しながら小まめに進捗を文章にまとめることで論文執筆の負荷を分散できる

特に最後の執筆負荷の分散が肝で、きちんとジャーナルを書きながら研究を進めていたら、いつの間にかそれが論文の初稿になっていることが理想です(自分は全くできていないので精進...)

毎日Research Journalを更新しながらその都度、内容からライティングに至るまで具にフィードバックをもらう中で、自分の執筆レベルが如何に低いか、きちんとしたParagraph Writingができているかを常に意識させられました

締切までに論文の質を上げきることの重要性については東大の松尾先生が書いている通りですが、特に経験の浅い学生においては、このResearch Journalのように、研究開始時点からフィードバックをもらって論文を書く環境を作ることが大事だと思います

 

また、今回の滞在ではR, JAGSを用いたべイズ統計心理統計 (ANOVAなど)探索的データ解析など新しい知識も多く習得できました (リンクは主に参考にした教材)。こうしたインプットにおいても、事あるごとに原さんから参考文献をいただいていました。本当に恵まれた研究環境だったと感じます

 

生活

シンガポールは一般に物価が高いと思われていますが、トータル1年半ほど滞在してみて、庶民が暮らす分には東京と同程度だと感じます。一方、家賃については概して東京より高額です (ワンルームで10万円以上がデフォルト)

私は知り合いとシェアハウスをすることで家賃を65000円程度に抑えることができました。アクセスも大学までDoor to Door20分ほどと、好条件の物件だったと思います。こうした部屋探しに関する情報は学生向けの参加承認制facebookグループに転がっていることが多いです

近所にはNewton Food Centerという有名なフードコートがあり、研究終わりにここで焼き鳥や屋台シーフードを食べるのが日課でした

また、週末に研究室のメンバーや原さんと食事にいくことも多かったです。特に原さんとよく行ったThe Modern Izakayaは、串焼きや寿司といった日本食のおつまみが食べれてとてもオススメです

RiversideのHeadquartersというクラブには交換留学時から足繁く通っていました。House, Technoに絞った徹底的質重視のブッキングと音作り、赤いレーザーライトが舞う薄暗くスモーキーな空間からは「シカゴやデトロイトのWarehouse Partyをアジアでも実現する」というオーナーの哲学が垣間見えます。音楽好きの方もそうでない方も一度足を運んでいただきたいです

 

さいごに

原さんの研究室では現在、夏の研究インターンを募集しています

ここに書いたように、充実した研究環境でしっかり鍛えてもらえることを保証します。研究内容が近い方はもちろんのこと、HCIの中で違うことをやっている人もぜひご検討ください

私自身、普段はデバイスを作っているのですがここで経験したことが研究者として一生物の財産になったと感じています。CVやポートフォリオは英語ですが、やりとりは日本語で大丈夫なので興味ある方はkotarohara@smu.edu.sgまでメールを送りましょう